「昨日、こうしてくださいと伝えましたよね?」
障がいのある社員に仕事をお願いしたとき、説明したはずのことが伝わっておらず、戸惑った経験はありませんか。
何度も説明しているのに同じことが起きると、「この仕事は任せられないのかもしれない」と感じてしまうこともあるでしょう。けれども、その原因は本人のやる気や能力ではなく、「伝え方」と「受け取り方」のすれ違いにあることが少なくありません。
- 指示のゴールは「説明すること」ではなく、相手が理解して行動できることです
- 発達障がいのある方の中には、長い説明・あいまいな表現・まとめての指示が受け取りにくい方がいます
- 結論から・一つずつ・具体的に・文字でも伝えるだけで、すれ違いは大きく減らせます
- 伝わったかは「分かりましたか?」ではなく、本人の言葉で確認します
「言った」と「伝わった」は違う
指示を出す側は、「説明した」ことで役目を果たしたと感じがちです。しかし、仕事の指示のゴールは「説明すること」ではなく、「相手が理解して、行動できること」です。
- ちゃんと説明しました
- 言ったのにやっていない
- 何度も言っているのに
- ちゃんと伝わっていましたか?
- どうすれば伝わる形になるか
- 伝え方を変えてみよう
この視点に立つと、すれ違いの多くは、伝える側の工夫で減らせることが見えてきます。これは障がいの有無にかかわらず、すべての職場のコミュニケーションに言えることです。ただ、障がい特性によっては、このすれ違いがより起きやすくなります。
指示が伝わりにくくなる背景
発達障がいのある方の中には、次のような特性を持つ方がいます。
苦手なことがある
受け取り方が人によって違う
分からなくなる
見た情報が理解しやすい
こうした特性がある方にとって、口頭で、まとめて、あいまいに伝えられた指示は、とても受け取りにくいものです。結果として「言われたことと違う」行動になってしまいますが、本人は怠けているのではなく、指示の受け取り方でつまずいているのです。
業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する、などが挙げられています。
「正しいこと」より「伝わること」
もうひとつ大切なのが、「誰が、どう言うか」です。たとえば、コンビニの前で知らない人から突然「もっと運動したほうがいいですよ」と言われたら、どう感じるでしょうか。内容は正しくても、素直に受け取るのは難しいと思います。
職場も同じです。どれだけ正しい指示でも、強い口調で繰り返されたり、「前にも言ったよね」と責められたりすると、本人は萎縮し、かえって理解できなくなってしまいます。正論で動かそうとするより、「この人の言うことなら聞いてみよう」と思える関係をつくることが、結果的には近道になります。
現場ですぐできる伝え方の工夫
結論から話す
「何をしてほしいのか」を最初に伝えます。背景や理由はその後です。報告や説明の場面でよく使われる「PREP法」は、指示を出すときにも役立ちます。
この書類を、今日の15時までにファイルに綴じてください。
明日の会議で使うためです。
見本はこのファイルです。同じ順番で綴じてください。
15時までにお願いします。
一度に一つずつ伝える
複数の作業をお願いするときは、一つ終わってから次を伝えるか、番号を付けて順番を示します。
あいまいな言葉を、数字や具体的な形に置き換える
- なるべく早く
- きれいに
- 適当にまとめて
- 今日の15時までに
- 角をそろえて、ホチキスは左上に1か所
- 日付の古い順に、10枚ずつクリップで留めて
口頭だけでなく、文字や見本でも伝える
メモやチャット、手順書、完成見本などを添えると、あとから本人が見返すことができます。「メモを取ってください」とお願いするより、伝える側が書いて渡すほうが確実な場合も多くあります。
伝わったかを、本人の言葉で確認する
「分かりましたか?」と聞くと、多くの方は「はい」と答えます。代わりに「最初に何をしますか?」と聞いてみると、理解のずれに早く気づけます。
- 最初に「何をしてほしいか」を言えているか
- 指示は一つずつになっているか
- 期限・量・形を数字や見本で示しているか
- 口頭だけでなく、文字でも残しているか
- 「最初に何をしますか?」と確認したか
伝え方を変えると、任せられる仕事が増える
伝え方を少し工夫するだけで、「任せられない」と思っていた仕事を、安定してこなせるようになるケースは少なくありません。そして、こうした伝え方は、障がいのある社員だけでなく、新人や他の社員にとっても分かりやすいものです。
大切なのは、「どうすれば伝わるか」を考える出発点として、その方の障がい特性を知ることです。特性が分かれば、伝え方の工夫も自然と見えてきます。

