「昨日も言ったよね。なんでメモを取らないの?社会人として当たり前でしょう」
障がいのある社員を受け入れている職場で、このような言葉が出てしまう場面は少なくありません。言っている側に悪気はなく、むしろ本人の成長を願っての指導であることがほとんどです。
しかし、この一言がきっかけで本人が自信を失い、職場の関係がぎくしゃくし、やがて退職につながってしまうこともあります。今回は、この「メモを取らない」という場面から、障がい特性の理解について考えます。
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「メモを取るのは当たり前」は本当に当たり前か
多くの職場では、「指示を受けたらメモを取る」「一度聞いたことは覚える」ことが社会人の常識とされています。
ただ、この常識は「聞きながら書ける」「何が大事かを自分で判断できる」「書いたものを後で見返せる」といった、いくつもの力がそろっていることを前提にしています。そのどこかに苦手があると、「メモを取る」という一つの行動がとても難しくなります。
つまり、メモを取らないのは「やる気がない」からではなく、取れない理由があるのかもしれないのです。
メモを取らない・取れない背景にある特性
同じ「メモを取らない」という行動でも、その背景は人によってさまざまです。たとえば次のような特性が考えられます。
聞きながら書くことが難しい
発達障がいのある方の中には、二つのことを同時に行うのが苦手な方がいます。書くことに集中すると話が耳に入らなくなり、話を聞くことに集中すると書けなくなります。
耳で聞いた情報が残りにくい
一時的に情報を覚えておく力(ワーキングメモリ)が弱い、耳からの情報を処理するのが苦手といった特性があると、話を聞いた直後でも内容を書き出すことが難しくなります。
文字を書くこと自体に困難がある
学習障がい(LD)の中には、文字を書くことに困難がある「書字障がい」があります。書くのに時間がかかる、書いた文字を自分で読み返せないといったことが起こります。
「メモを取るもの」という暗黙のルールが伝わっていない
自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方は、言葉にされていない暗黙のルールを読み取るのが苦手な場合があります。「メモを取ってください」と言われていなければ、メモを取るべき場面だと気づかないこともあります。
緊張や不安で頭が真っ白になる
精神障がいのある方や、注意を受ける経験が重なってきた方は、指示を受ける場面で強い緊張を感じることがあります。緊張で頭が真っ白になり、書くどころではなくなってしまうのです。
大切なのは、診断名で決めつけないことです。同じ障がいでも特性の出方は一人ひとり違います。まずは「なぜ取れないのか」を本人と一緒に確かめることが出発点です。
注意を繰り返すと、何が起きるか
理由を知らないまま「メモを取りなさい」と注意を繰り返すと、次のようなことが起こりがちです。
- 本人は「できない自分」を責められていると感じ、自信を失う
- ミスを恐れて質問や報告をしなくなり、かえってミスが増える
- 指導する側も「何度言っても変わらない」と疲れてしまう
- 周りの社員に「あの人はやる気がない」という見方が広がる
障がいのある部下の指導に「疲れた」と感じている管理職の方も多いと思います。しかしその疲れは、本人の努力不足ではなく、伝え方と本人の特性が合っていないことから生まれているのかもしれません。
職場でできる具体的な対応
特性に合わせて伝え方を少し変えるだけで、状況は大きく変わります。特別な設備は必要ありません。
- 本人に理由を聞く:「メモを取るのが難しい理由はある?」と責めずに尋ねる
- 指示を文字で渡す:口頭に加えて、紙やチャット、メールで要点を送る
- 一度に一つずつ伝える:複数の指示をまとめて出さない
- 復唱してもらう:聞いた内容をその場で言ってもらい、ずれを確認する
- メモの型を用意する:「いつまでに・何を・どうやって」を書き込むだけの用紙を渡す
- 書く以外の方法を認める:スマホのメモ、ホワイトボードの写真、手順書の活用など
- 確認のタイミングを決める:「作業の前に一度見せてね」と区切りを作る
ポイントは、「メモを取れるようにさせる」ことではなく、「指示が確実に伝わる仕組みをつくる」ことです。目的は仕事が正しく進むことであり、メモはその手段の一つにすぎません。
そして、こうした工夫は障がいのある社員だけでなく、新人や外国人スタッフなど、職場の誰にとっても分かりやすい伝え方になります。
一人で抱えず、職場で共有する
本人に合った伝え方が見つかったら、それを担当者一人だけのものにせず、職場で共有することが大切です。上司が異動したり、担当者が休んだりしたとたんに元に戻ってしまっては、定着にはつながりません。
特性を理解し、本人と周りをつなぐ役割を担う人が社内にいると、こうした工夫が職場全体に広がりやすくなります。
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