障がいのある社員が配属されたとき、「きつく言ってしまったらどうしよう」「どこまで頼んでいいのか分からない」と感じたことはありませんか。
その結果、簡単な仕事だけをお願いする、ミスがあっても指摘せずに自分で直しておく、声をかけるのは必要なときだけにする。どれも、相手を思いやる気持ちから生まれる行動です。
ところが、この「遠慮」が、本人にとってはつらさの原因になっていることがあります。一方で、本人から配慮の申し出があったときに「それはわがままでは?」と戸惑う声も、当協会にはよく届きます。
- 仕事を減らす・指摘しない「遠慮」は、本人に「期待されていない」と伝わることがあります
- 合理的配慮は「わがまま」でも「特別扱い」でもなく、スタートラインをそろえるための調整です
- ただし希望をすべてかなえる義務ではなく、「過重な負担」にならない範囲で話し合って決めます
- 迷ったときの土台は、その方の障がい特性への理解です
「遠慮」は「期待されていない」と伝わることがある
上司の側は「負担をかけないように」と考えて指示を控えます。しかし本人の側から見ると、同じ状況がまったく違って見えることがあります。
- 負担をかけないよう、簡単な仕事だけにしよう
- 傷つけないよう、ミスは言わずに直しておこう
- 無理をさせないよう、そっとしておこう
- 周りは忙しそうなのに、自分だけ仕事がない
- ミスをしたはずなのに、誰も何も言わない
- 自分の仕事が、いつの間にか他の人に直されている
こうした状況が続くと、「自分は戦力として見られていないのではないか」「何か言われないように、じっとしていたほうがいいのではないか」という不安が大きくなります。仕事を通じて成長している実感が持てず、職場に居場所がないと感じてしまうのです。
指摘されないことが、成長の機会を奪ってしまう
仕事の進め方は、やってみて、フィードバックを受けて、直していく中で身についていきます。これは障がいの有無にかかわらず同じです。
また、発達障がいのある方の中には、言葉にされていない周りの期待や空気を読み取ることが苦手な方もいます。「言わなくても察してくれるだろう」「そっとしておこう」という接し方は、かえって本人を混乱させることがあります。はっきり、具体的に伝えることがやさしさになる場面は少なくありません。
離職の理由はさまざまですが、職場で孤立感を抱えたまま働き続けることは、誰にとっても簡単ではありません。
合理的配慮は「わがまま」でも「特別扱い」でもありません
本人から「指示はメールでもらえますか」「休憩を少し細かく取りたい」といった申し出があったとき、「ほかの社員との公平性は?」「わがままを聞いていいのか」と迷う方もいるかもしれません。
障害者雇用促進法により、2016年4月から、すべての事業主に障がいのある方への合理的配慮の提供が義務づけられています。合理的配慮とは、障がいのない方と均等な機会を確保し、持っている能力を発揮できるようにするための調整のことです。
たとえるなら、視力の弱い方にとっての眼鏡のようなものです。障がいによって生じている「働きにくさ」を取り除き、スタートラインをそろえるための工夫であって、楽をさせるための特別扱いとは違います。合理的配慮を行った結果として、ほかの社員と異なる取り扱いになることは差別にはあたらないと、厚生労働省の指針でも整理されています。
ただし「言われたことを全部かなえる」ことでもありません
合理的配慮は、本人の希望をそのまますべて受け入れることではありません。厚生労働省の合理的配慮指針では、事業主にとって「過重な負担」となる場合は、提供の義務はないとされています。
事業活動への影響の程度/実現困難度/費用・負担の程度/企業の規模/企業の財務状況/公的支援の有無
大切なのは、本人と企業が話し合いながら決めていくことです。希望どおりの対応が難しいときも「できません」で終わらせず、理由を説明したうえで、本人の意向を尊重しながら別の方法を一緒に探すことが求められています。
つまり合理的配慮は、「わがまま」でも「言いなり」でもなく、対話によって職場ごとにちょうどよい形を見つけていく仕組みなのです。
現場でできる接し方の工夫
腫れ物扱いにならず、無理もさせないために、当協会が現場でおすすめしている考え方を4つご紹介します。
伝え方・渡し方を変える
「手順」の話として伝える
確認の場を先に決める
外部機関も活用する
「配慮すること」と「仕事を減らすこと」を分けて考える
配慮は仕事の「やり方」を調整することであって、仕事そのものを取り上げることではありません。口頭の指示が苦手なら文字で伝える、一度に多くを頼むと混乱しやすいなら順番に渡す。やり方を変えれば、任せられる仕事は意外と多くあります。
ミスは「人」ではなく「やり方」の話として伝える
- なんでできないの?
- 前にも言ったよね
- ちゃんとやって
- この手順のここを、次はこうしてみましょう
- 確認のために、手順書をもう一度一緒に見ましょう
- この部分を、見本と同じ形にそろえてください
感情ではなく事実とやり方に焦点を当てると、伝える側も言いやすく、受け取る側も受け止めやすくなります。
困っていることを定期的に確認する
合理的配慮指針では、事業主が必要に応じて、職場で支障となっていることがないかを定期的に確認することも求められています。本人からは言い出しにくいこともあるため、週に一度の短い面談など、確認する場をあらかじめ決めておくと安心です。
一人で抱えず、周りと役割を分ける
上司一人が気をつかい続ける形は長続きしません。配慮の内容を関係者で共有し、社内の相談窓口や、地域障害者職業センターのジョブコーチ支援などの外部機関も活用しましょう。指針でも、相談に応じる体制を整えることや、同僚が障がい特性への理解を深めることが大切だとされています。
迷ったときの土台は「特性への理解」
遠慮しすぎてしまうのも、申し出を「わがまま」と感じてしまうのも、多くの場合、その方の障がい特性が見えていないことから生まれます。
なぜ口頭の指示が苦手なのか。なぜ休憩のとり方を工夫したいのか。背景にある特性が分かれば、どこまでお願いしてよいか、何を調整すればよいかが自然と見えてきます。そうなれば、腫れ物に触るような接し方ではなく、同じチームの一員として期待を伝え、仕事を任せることができます。


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